登山道は、子供たちの甲高い声に包まれていた。数珠つなぎとなった幼稚園児や小学生たちの喚声が響く。走り回る子、岩の上を歩く子、ぐずる子......筑波山(877㍍、茨城県つくば市)は、地元の子供たちの遠足の舞台となっていた。それだけ登りやすい、ということなのだろう。登りやすさの条件に「標高が低い」ということも挙げられる。高峰が居並ぶ日本百名山の中にあって、筑波山は標高が最も低い。
百名山を選定した深田久弥氏は、「私があえてこの山を推す理由の第一は、その歴史の古いことである」としている。奈良時代末期に成立したとみられる最古の和歌集「万葉集」で詠まれていることを考えれば、深田氏の説明はうなづける。現代の子供たちも、そして、千年前の歌人も、2つの頂を持つ筑波山に親しんでいたことになる。
24年5月10日、登山初心者向けの「安心安全富士登山教室」(まいたび主催)もステップ3となり、関東の名峰・筑波山(875㍍)に舞台を移した。早朝に東京を出発した一行24人とスタッフ5人の乗る専用バスは午前9時半、登山口のつつじケ丘バス停に到着した。身支度を整え、同49分に楠元秀一郎・登山ガイドが引率する1班12人がスタートした。
筑波山はツツジの山でもある
2班のリーダー、渡辺四季穂・登山ガイドが「肌寒いくらいの服装にしてください。すぐに暑くなります」と声をかけて、12人の参加者は出立した。登山道は急傾斜の階段から始まった。渡辺ガイドは「ゆっくり行きますね」と声をかけた。隊列の前後には子供たちの姿があった。こちらもゆっくりとした歩みで、列はなかなか進まない。「渋滞も富士登山のよい練習です」と渡辺ガイド。「弁慶七戻り」「母の胎内くぐり」「出舟入船」といった奇岩を見ることができるのも筑波山の魅力だろう。岩場を通過する際には「岩を手で持って身体を支えて」「滑りそうなところは避けて」と注意が飛んだ。
渡辺ガイドを先頭に岩場を登る
奇岩・弁慶の七戻り
正午、女体山山頂に到着した。山名標の前で、参加者が交代で記念撮影を行った。ここからさらにもう一つの頂である男体山(871㍍)を目指した。昼食休憩の後、午後1時10分過ぎに男体山に到着した。山頂からは関東平野が一望できた。男性参加者は「絶景だね」と歓声を上げた。しかし、春霞の影響か、富士山は見ることは叶わなかった。渡辺ガイドは「富士山は見られなかったけれど、夏には登りましょう」と励ました。
女体山山頂からの絶景
男体山山頂は関東平野が一望できる
5月21日には、岡野明子・登山ガイドが引率し13人の参加者が双耳峰を踏んだ。気温は26度前後と高く、汗をかく日となった。虫たちの動きも活発化し、ハチがまとわりつく場面もあった。岡野ガイドは「手で払わないで。敵と思われます」と注意喚起した。
男体山山頂
にぎわう女体山山頂
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】