八ケ岳連峰の主峰のひとつ、硫黄岳(2760m)は登りやすく、見どころの多い山だ。登山口の美濃戸口(標高1490m、長野県茅野市)から山小屋・赤岳鉱泉(2220m)までの高低差700m余りの道のりを3時間かけてゆっくり歩く。道中は樹林におおわれ、登山道には高山の花々が咲いている。
山登り初心者を富士山に誘う「安心安全富士登山教室2024」もステップ6を迎え、舞台を硫黄岳に移した。
7月9日午前10時過ぎ、東京・新宿から専用バスに乗った参加者15人は美濃戸口に到着した。準備が整ったのを見計らった楠元秀一郎・登山ガイドは、「それでは出発します」と声をかけて歩き始めた。「レインウェアは出しやすいところに」「ストックを使って足を(疲れないように)温存しましょう」と語りかけた。シモツケソウ、オダマキ、クリンソウの花々が迎えてくれた。曇り空が広がり、降り出しそうだ。
14時過ぎ、赤岳鉱泉に到着した。「(雨につかまらず)逃げ切りましたね」と楠元ガイドは安どの表情だ。
川沿いの道を進む楠元ガイド
赤岳鉱泉には山小屋では珍しい入浴施設がある。石鹸などは使えないが汗を流すだけで、疲れが癒される。くつろいだ後、午後5時から富士登山に向けた説明会が開かれた。ヘッドランプの使い方やパッキングの仕方など実戦的な説明があった。
翌日は午前5時過ぎに出立した。「寒いくらいのウェアリング(着こなし)で」と注意喚起した。登りの山道を5分も歩けば、発汗し暑くなるからだ。小石の多い、ざれた道を登りつめていく。「歩幅は小さく、足踏みをしているんじゃないかと思うくらい、小さく」とアドバイスした。
7時40分過ぎ、硫黄岳山頂に到達した。参加者は「やっと着いた」と歓声を上げたが、霧に包まれ、風も吹いていた。寒く、長居は無用だ。それぞれが写真を撮った後は、下山にかかった。
7月19日には、19人の参加者が硫黄岳に挑んだ。2班に分かれ、それぞれを小野直子ガイドと宮本勝規ガイドが率いた。オダマキやギンリョウソウの咲く登山道を歩いた。「登るだけでなく、花にも興味がわいてきます」と小野ガイドが語った。山小屋での説明会で、宮本ガイドは「(荷物は)はぶけるものははぶいてください。軽いことは正義です」と伝えた。
ギンリョウソウ
シャクナゲ
20日は山頂に立つことはできたが、霧と暴風で体感温度は数度だったろう。低体温症の恐れもあるため、山頂を踏んだだけで引き返した。
硫黄岳山頂
硫黄岳山頂でバンザイ!
晴天であれば、山頂に咲く高山植物の女王・コマクサを愛(め)で、富士山を遠望できた。しかし、山の天気は甘くない。荒天の日もあるのだ。参加者は「富士山では晴れますように」と祈りつつ、「次はいよいよ本番ですね。頑張ります」と意気込んでいた。
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】
●筆者プロフィール●
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日ハイキングクラブ」前会長