渡辺四季穂・登山ガイドは、絶え間なく声をかけていた。後ろには14人の登山者が歩いていた。「まいたび(毎日新聞旅行)」主催の「安心安全富士登山教室」の参加者の皆さんだ。渡辺ガイドは談笑し、笑い声も聞こえた。だが、登山道では鋭い声を響かせた。
「ゆっくり登りますよ」「暑くないですか」「深呼吸をお願いします。長く息を吐いて」
参加者の登山靴もザックも真新しい。登山初心者の安全を守りつつ、山歩きの技術を伝えようと懸命なのだ。
2025年3月21日、一行は小田急線秦野駅の改札に集合した。駅近くの河原に降り立ち、登山靴の履き方などを講習した。「まず靴を履いて、かかとを(地面で)トントンして、かかとと靴を合わせてください」「富士山ではハイカットの登山靴を選んでください。ハイカットでないと足を痛める可能性があります」。参加者の手本となるように靴ひもを締め直した。さらにザックの担ぎ方などを語り、出発した。
登山靴のはき方を伝える渡辺ガイド
午前10時55分、登山口から登り始めた。傾斜がきつい山道を登りつめて行く。平日だが、いく人ものハイカーとすれ違い、または追い抜かれた。渡辺ガイドは「降りてくる人がいます」「山側にリュックサックを向けて避けてください」と大きな声で呼びかけた。足元には、紫色のスミレの花が揺れていた。同11時半、最初のピーク・浅間山に着いた。遠くに白雪の富士山が見えた。参加者はスマートフォンを取り出して、撮影した。「夏にはあの頂(いただき)に登りたい」と男性参加者が話してくれた。
スミレの花が咲いていた
浅間山にて富士山を撮影する参加者
正午前には、展望塔のある権現山(243.3㍍)に到着した。ここで昼ごはんを食べて、12時55分には目的地である弘法山(235㍍)に到達した。山頂には展望台が新設されていた。遠くに島影が見えた。「あれは江ノ島ですか」と女性参加者が独りごちた。さわやかな風が吹き、参加者の笑顔が広がった。一行は来た道を引き返し、秦野駅へと向かった。
新装になった弘法山の展望台
弘法山の山頂名を記した碑
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】
●筆者プロフィール●
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。
2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日ハイキングクラブ」前会長